学際フロンティア講義「気候と社会」第4回目の講義は、同位体気象学の第一人者である芳村圭教授(本学生産技術研究所グローバル水文予測センター、宇宙航空開発研究機構地球観測研究センター・センター長)をお招きし、「気候と社会をつなぐ物質:水」をテーマに、気候変動に関する陸域水循環モデルについてお話しいただきました。
講義の主な論点は以下の通りです。
- 水循環・陸域モデリング研究を通じた地球システムモデル開発によるIPCC AR6 WGⅡへの貢献
- 統合陸域シミュレータ(ILS)開発
- 陸面モデルMATSIRO、河川モデルCaMa-Flood
- 気候変化による世界的な自然災害への影響(豪雨、洪水、干ばつ、山火事等)
- 国内外の気象災害の事例
- 日本の洪水予報の法規制の動向
- 水文学的干ばつ
- 温度や雨量の指標に水同位体を用いて水循環を追跡する
- 温室効果ガスと同位体比
- 気温上昇と降水量の経年変化について
芳村教授からは、陸域水循環の観点から、気候変動によるグローバルな気象災害のメカニズムについてお話いただきました。現在、気候変動に伴う極端現象が顕在化しており、とくに、世界的に洪水が高頻度発生している一方で干ばつが深刻化する地域があること、温暖化で今後も気象災害が高頻度化・激甚化することが予測されていること等についてご教示いただきました。これまで気象業務法により、民間による洪水予測は許可されていませんでしたが、近年、解禁の方向で法改正が進んでおり、芳村教授が研究されているような予測精度が高い洪水予測の結果が、ニュース等を通じて天気予報のようにタイムリーに配信されるようになれば、被害をより一層軽減する可能性が高いこと、水害を予測するには水の同位体比(軽い水、重い水)に着目して水循環を追跡することが有効であり、水同位体から気候を復元することもできる、といった解説がありました。授業の後半には数理気候学の計算による気温変化と降水変化の相関についてご教授いただきました。