学際フロンティア講義「気候と社会」第11回目の講義は、環境経済学、経済政策がご専門の成田大樹教授(大学院総合文化研究科・教養学部)をお招きし、「気候変動影響の経済評価」をテーマに、経済学の観点から見た「気候と社会の問題」についてお話しいただきました。

講義の主な論点は以下の通りです。

  • 学術的問題としての「気候と社会」の歴史:モンテスキュー「法の精神」
  • 経済学における、気候と社会制度(そして所得水準)に関する議論:気候と所得水準
  • 気候変動影響の経済評価:気候変動の多種多様な人間への影響をどのように定量化するか
  • 長期的な気候変動の影響を経済評価するための指標:正味現在価値(NPV)
  • 気候変動がもたらす経済的便益の例:北極海航路(NSR)
  • IPCC評価報告書(AR6,2022)、気候変動下における主要作物の将来の収量変化
  • 気候変動影響のリスク・不確実性の捉え方
  • セクター毎(農業、インフラ整備等)のインパクトを経済評価するためのアプローチ―プロセスモデルアプローチ、統計的アプローチ
  • 二酸化炭素の社会的費用(SC-CO2)定量化の試み
  • 気候に連動したティッピングリスク
  • パリ協定と気候変動に関する途上国支援
  • 気候変動適応問題と定量評価:気候変動への緩和と適応
  • 事例研究:ムエア灌漑開発事業(Mwea Irrigation Development Project)の気候変動適応効果の評価

 成田教授からは、主に気候変動影響及び気候変動適応問題をどのように経済評価するのか、についてお話いただきました。気候と所得水準のデータの間には関係性があり、その同定が将来の気候変動の経済影響を定量評価する際にも有効であることを昨今の計量経済学の研究成果を取り上げながらご説明くださいました。近年、世界的に気候変動影響の経済評価に注目が高まっており、多種多様な気候変動の人間への影響(食糧生産、水、健康、産業、インフラ等への影響)をどのように定量的に評価していくかが課題になっています。気候変動の人間への影響は全て負であるというわけではなく、北極海航路の将来的活用など、経済に正の影響をもたらす事例もありうると考えられています。経済学的観点からは、実際の気候変動の影響の有無や大小に関わらず、問題の将来的なリスク・不確実性を鑑みて予防・防止策を講じることは合理的な行動であり、気候変動緩和策及び気候変動適応策を検討するにあたりSC-CO2の定量化や投資効果の評価等、定量的な経済評価を行うことが極めて重要であることをお話しくださいました。

<まとめ:田代藍>