学際フロンティア講義「気候と社会」第13回目の講義は、気象学・気候科学がご専門の渡部雅浩教授(大気海洋研究所、気候と社会連携研究機構 副機構長)をお招きし、「気候と社会」総括~社会と個人の将来像を描く~をテーマに、本講義全体の総括と気候モデリングによる温暖化研究についてお話しいただきました。

講義の主な論点は以下の通りです。

  • 温暖化の理論について
  • 気候システムについて
  • 全球気候モデル(GCM)とは
  • 気候モデリング研究の発展
  • 気候変動の将来予測と排出シナリオ
  • 炭素予算:カーボンニュートラル
  • 30年後の社会

 本日は最終回ということで、出席した学生から総括として、これまでの12回の講義資料のスライドから、「心に残った一枚」を選び、なぜそれを選んだかを説明してもらいました。文理の科類を問わず、学生の選んだ一枚は様々でしたが、背景の理解度や興味・関心の所在が分かって興味深い発表でした。渡部教授からは、気候科学としての気候システムの概念および、真鍋淑郎先生の研究に始まる温暖化の理論・シミュレーション研究の発展について解説いただきました。東大が中心になって開発してきた全球気候モデルMIROCによる温暖化シミュレーションの他、地球のエネルギー収支、温暖化のメカニズムにおいて重要な気候フィードバックなどについて講義していただきました。気候変動のメカニズムを理解するうえで、気候モデルによる数値シミュレーションは不可欠であり、モデルに与える温室効果ガス排出シナリオごとの将来気候変化の見通しを確実にすること、また炭素予算推定のための気候感度の理解が極めて重要であることをご教示くださいました。現時点では、排出シナリオ策定にあたってシミュレーションから得られる気候変化の情報を取り込んでいないため、気候の変化と社会の変化を双方向的に理解することはまだ十分にできていません。今後は、それらの相互作用を統合的に理解する新たな研究の枠組みが必要であることをご説明いただきました。最後には、今後30年の社会変容の予測を紹介したうえで、俯瞰的に気候と社会の学術を理解するだけでなく、進行する温暖化とそれに対する社会の応答を自分ごととして考えてほしいというメッセージで締め括られました。

<まとめ:田代藍>