学際フロンティア講義「気候と社会」第10回目の講義は、国際開発協力や環境政治が専門の佐藤仁教授(東洋文化研究所新世代アジア研究部門、新領域創成科学研究科国際協力学専攻 協力講座(兼任))をお招きし、「気候正義」をテーマに、発展途上国の環境問題に関する開発援助と資源政策についてお話しいただきました。
講義の主な論点は以下の通りです。
- 開発(援助)⇒資源⇒国家権力⇒中間集団
- 森林保護と森林住民の排除
- 森林消失の原因
- 「コミュニティ林」の実態
- COP19 気候変動による損失と損害(Loss and damage)
- ラオスの事例
―ラオス奥地の村での「地球環境教育」
―ラオスの「開発する権利」と実態は?
―土地利用の規制、国家による自然支配の帰結 - マレーシアの事例
―複数の正義は対話可能か?
―10歳のイギリス少年の抗議文 - 環境正義とは?
- 不正義を隠す3つのオブラート:
「援助」、「コミュニティ」、「自然保護」 - カンボジアの事例
―漁区の開放政策とコミュニティへの委譲
―カンボジア政府のよる資源レントの操作 - フィリピンのサファリパークの事例:「自然保護」のオブラート
佐藤教授からは、気候変動の課題の1つである「Loss and damage」に取り組むうえで重要な気候正義(環境正義)についてお話いただきました。Loss and Damage への注目は重要ですが、その「解決方法」にも正義の問題が横たわっているというのが主な指摘でした。佐藤教授のこれまでの様々な途上国での経験にもとづき、多様な事例をあげながら環境保全・保護政策の実態と利権について解説いただきました。環境保全・保護政策が社会全体の便益になることが自明である一方で、先進国が期待する途上国への環境政策が、地域住民(特に政治的弱者)の生計に負の影響をもたらす場合があること、利権の操作の対象になりがちであることなど、環境保全・保護政策にはオブラートに包まれた環境不正義の問題が孕んでいることをご教示いただきました。今後の開発の在り方として、環境政策の介入による作用を模索する必要性、生じた問題への事後対応だけではなく未然に防ぐための予防策についても同時に捉えていく重要性についてもご教示くださいました。
<まとめ:田代藍>