学際フロンティア講義「気候と社会」第6回目の講義は、海洋システムモデリング研究の第一人者である羽角博康教授(本学大気海洋研究所)をお招きし、「気候と海洋~人間活動による海洋の大規模変化」をテーマに、温暖化に伴う海洋大循環の変化に加え、炭素以外の元素も含む地球規模のサイクルに人間活動が与えている影響についてお話しいただきました

講義の主な論点は以下の通りです。

  • 地球システムにおける海洋の位置づけ
  • 海洋大循環のしくみ
  • 海洋大循環の気候への影響
  • 地球システム内での炭素循環における海洋のはたらき
  • 海の炭素循環の生態系への影響
  • 気候温暖化による海洋環境の大規模な変化
  • 生物を構成する主要な元素の地球規模のサイクルに対する人間の干渉

 羽角教授には、地球システムに大きく影響する海洋大循環のしくみについて詳しく解説いただき、そこに人間活動が及ぼす影響についてお話しいただきました。講義では、ご専門のモデリングの詳細は脇におき、現象面を中心に述べられました。地球に到達する太陽からのエネルギーは緯度による大小があり、熱輸送による空間的再配分がなければ地球上のほとんどの場所に生物は棲めなくなること、低緯度から高緯度への熱輸送のうち約1/3を海洋が担っていることなどが示されました。海洋大循環には主に表層を移動する風成循環と、鉛直循環を含む熱塩循環があり、低温の高緯度海面で吸収された二酸化炭素が、熱塩循環により、高緯度で深層へ、中低緯度で深層から海面へ移動し、高温の中低緯度海面で放出される炭素循環が生じています。海洋での光合成量は陸上に匹敵しており、そのほとんどを担う植物プランクトンの分布は高緯度に偏っていて、その制限要因は窒素、リン、ケイ素、鉄などの栄養物質であることなどが解説されました。その上で、温暖化に伴う氷の溶解と水の熱膨張による水位上昇、風系変化による風成循環変化、海水密度変化が生じることによる熱塩循環変化、海の成層強化により上下循環が弱まること、さらには二酸化炭素吸収能力の低下につながることが説明されました。人間活動の影響は二酸化炭素だけでなく、20世紀中に倍増したともいわれる窒素・リンの供給、陸水中のケイ素の除去などによる海洋生物種変化や、自然界に存在しないプラスチックや放射性物質放出などによる大規模汚染を引き起こしていることへの考慮も必要であることをご教示いただきました。

<まとめ:田代藍>