学術フロンティア講義「気候と社会」第3回目の講義は、大気海洋研究所の阿部彩子教授をお招きし、「地球史からみる気候の変動」をテーマに、地球システムモデリングに基づく気候変動現象解明について解説いただきました。
講義の主な論点は以下の通りです。
- 気候モデルにおける模擬実験による気候の仮説の検証
- 過去の気候の再現と将来における気候変化の予測
- なぜ氷期や間氷期が繰り返されるのか?
- なぜ氷期中に急激な気候変化が繰り返されるのか?
- 地球システムモデリングでどこまで観測データを再現できるか?
阿部教授から、まず、真鍋叔郎先生の2021年ノーベル物理学賞受賞業績となった、気候の仮説を模擬実験(気候モデリング)で検証する研究スタイルについて解説がありました。さまざまな現象を物理学の式で表した地球システムモデリングを過去に適用し、どれだけ再現できているかを検証した上での未来予測について説明されました。目指す先は、過去から現在、そして将来へ、グローバルな環境がどのように変化するか?を問う基礎科学であることを強調されました。その上で、長時間の環境変化の基礎的な問いを解くために、大気海洋結合に加えて、植生などの生態系、氷床などの雪氷圏、炭素循環などの海洋物質循環を含めた地球システムモデリングが必要であることを、繰り返す氷期と間氷期を例として解説されました。氷期と間氷期の間の変化に対しては、軌道要素かCO2か?の論争があったが、軌道要素変化(ミランコビッチフォーシング)に対して多重解を持つ氷床-気候の性質や、ゆっくり応答する氷床と地殻マントルに加えて、氷期から間氷期へ移行する退氷期における氷床融解と海洋深層循環とCO2の間のフィードバックが鍵であると説明されました。システムの安定性が気候の時間変化を左右し、少しの外力の違いが異なる環境になることを示され、氷期から間氷期に至る途中での寒の戻りといえる約1万2千年前のヤンガードリアス事件では、氷床からの淡水流入を契機に急激な寒冷化が起こったことなどを説明されました。また、海洋深層循環の強弱が1500年超の周期で起こることなど、様々な現象がシミュレーションで再現される、興味深い研究成果が多数示されました。