学術フロンティア講義「気候と社会」第4回目の講義は、海洋システムモデリング研究の第一人者である羽角博康教授(本学大気海洋研究所)をお招きし、「気候と海洋~人間活動による海洋の大規模変化」をテーマとして、地球システムの中で海洋が果たしている役割と、それに対する人間活動の影響について詳しく解説いただきました。

講義の主な論点は以下の通りです。

  • 地球システムにおける海洋の位置づけ
  • 海洋大循環のしくみ
  • 海洋大循環の気候への影響
  • 地球システム内での炭素循環における海洋のはたらき
  • 生物を構成する主要な元素の地球規模のサイクルに対する人間の干渉

 地球システムにおいて海洋は地球表層システムにおける最大の熱・水・炭素の貯蔵庫であり、気候への影響が大きくなります。地球規模の海洋大循環には、風による表層の水平循環である風成循環と、海面から海底までをつなぐ鉛直循環を含む熱塩循環があり、熱塩循環では、高緯度で下降した冷たい深層水が中低緯度で上昇すること、起点となる深層水形成は狭い範囲に限定されていることなどが説明されました。地球に到達する太陽からのエネルギーは緯度による大小があり、熱輸送による空間的再配分がなければ地球上のほとんどの場所に生物は棲めなくなること、低緯度から高緯度への熱輸送のうち約1/3を海洋が担っていることが示されました。また、海洋には多くの炭素が貯蔵されており、その大部分は深層の溶存無機炭素であること、産業革命以降に人間活動で放出された二酸化炭素のうち約1/3を海洋が吸収してきたことが示されました。海の炭素循環には、高緯度で二酸化炭素を吸収して中低緯度で放出する無機的炭素循環と、海面付近で光合成により二酸化炭素を固定して深海で有機物粒子が分解して二酸化炭素になる有機的炭素循環があります。海洋での光合成量は陸上に匹敵しており、そのほとんどを担う植物プランクトンの分布は高緯度に偏っていて、その制限要因は窒素、リンなどの栄養物質であることなどが解説されました。人間活動による二酸化炭素の増加は海洋酸性化を引き起こし、炭酸カルシウムの殻を持つ生物などに影響が生じます。工業的な窒素固定量は自然界の窒素固定量を上回る規模で、肥料として拡散されることで、リンなどと共に海洋の富栄養化を引き起こします。また、ダムで遮られて陸水からのケイ素供給がなくなり、珪藻が減るなど海洋生物種の変化につながることなどをご説明いただきました。

<まとめ:中崎城太郎>