学術フロンティア講義「気候と社会」第6回目の講義は、本学大気海洋研究所の伊藤進一教授から、「海洋生物資源への影響」をテーマとして、人類が海洋から受けている恩恵と、それに対して様々な形で現れている温暖化の影響について詳しく解説いただきました。
講義の主な論点は以下の通りです。
- 海洋生態系サービス
- 北西太平洋での十年スケール変動と魚種交替
- 温暖化の(直接的な)影響
- 水温以外の影響:貧栄養化、貧酸素化、酸性化
- 極端現象や汚染との複合効果
- とるべき対応
今回の講義は、事情によりオンラインでの補講となりました。まず、人類が海洋から受けている恩恵である「海洋生態系サービス」についてご説明いただき、その中で、日本付近の北西太平洋は、面積比率6%の海域で全世界の24%の漁獲量を生産する豊かな海であること、水温分布など種々の要因が絡んで10年単位で魚種交替が起こっていることをご紹介いただきました。その上で、地球温暖化の影響として、魚類生息域の地理的移動や生息分布域の変化、季節性の変化など水温上昇の影響に加え、対流現象の変化による貧栄養化、貧酸素化、海洋の二酸化炭素吸収による海洋酸性化なども影響していることを示されました。生物多様性や生物生産への影響が想定されますが、将来予測には大きな不確実性があります。その中で、熱帯域や、黒潮を含む西岸境界流域は、これまで海洋生物が経験したことのない水温をいち早く経験することが予想されています。また、豪雨や強力な台風、海洋熱波など極端現象の増加により、管理がより困難になっている状況があります。熱帯域珊瑚礁生態系、中緯度の藻場生態系、極域の海氷生態系では、温暖化、極端現象、海面上昇の複合効果があり、大きく影響を受けて元に戻れなくなる転換点に達しつつある状況です。さらに、水温上昇でマグロの代謝が増加した結果、環境中では減少しているはずの水銀を多く取り込むことになるなどの複合効果も見られています。このような状況の中で、我々に何ができるのか、というお話で締めくくられました。
<まとめ:中崎城太郎>