学術フロンティア講義「気候と社会」第7回目の講義は、進化・生態学理論がご専門の瀧本 岳教授(本学農学生命科学研究科・生圏システム学専攻)をお招きし、「生物多様性と気候変動」をテーマとして、現在進みつつある大量絶滅、あるいは生物多様性の減少要因を分析する中で、気候変動との関係について詳しく解説いただきました。

講義の主な論点は以下の通りです。

  • 人新世と第6の大量絶滅
  • 生物多様性の減少要因
  • 気候変動、酸性雨、環境汚染などの影響の具体例とそのメカニズム
  • 外来生物、乱獲などの影響と気候変動との関係
  • プラネタリー・バウンダリー

 瀧本先生は、まず「人新世」をご説明され、近年における第6の大量絶滅(人新世絶滅)は、過去5回の大量絶滅の間の背景絶滅率(100年あたり10,000種あたり2回の絶滅)をはるかに超える絶滅率であることなどを示されました。多くの生物種で個体数減少傾向があり、原因が明確でないものがあることや、さまざまなトレンドがみられることを説明いただきました。その上で、生物多様性の減少要因として、気候変動、酸性雨・海洋酸性化、土地利用変化、環境汚染・汚染物質、乱獲・捕り過ぎ、外来生物をとりあげ、それぞれ具体的なデータに基づいて解説いただきました。例えば気候変動の影響について、植物や鳥類の分布の変化を示され、温暖化のスピードが速い地域ほど個体数が減少している例などを挙げられました。一方で、負の影響だけでなく、二酸化炭素濃度上昇により植物成長が増加する、といった効果も現れることや、将来に関しては種々の社会経済シナリオによって異なる状況があり得ること、乱獲や外来生物などの影響が気候変動下でどのように変化するか、などといったことを、様々な観点から詳細にご紹介いただきました。最後に、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)について、生物多様性に関する指標としての絶滅率や、窒素・リンの人為的放出量が、既に地球の限界値を大きく超えていて、特に危機的な状況にあることを示されました。

<まとめ:中崎城太郎>