学術フロンティア講義「気候と社会」第8回目の講義は、人類生態学がご専門の小西祥子准教授(本学医学系研究科・国際保健学専攻)をお招きし、「気候変動と人口」をテーマとして、人間と地球環境の関わり、人口変動の要因などについて詳しく解説いただきました。

講義の主な論点は以下の通りです。

  • 人類はなぜ、地球上のあらゆる地域に生息しているのか?
  • 人類はどのように持続可能に生きるか?
  • 気候変動とヒトの進化
  • これまでの人口の変遷
  • なぜ日本人の出生力は低いのか?

 小西先生は、人類が地球上のあらゆる地域に生息するようになった要因として、文化的・生物的に環境に適応したこと、環境を改変してきたことを挙げられました。一方で、生態系に関して、閉鎖系での実験で「地球は人間の手で作れない」という結論に至ったことを例に、地球環境は壊さないように大事にしなければならないことを示されました。持続可能性を考える上で、太陽光エネルギー、生物多様性、化学循環を考慮すべきこと、自然資源と生態系サービスからなる自然資本が不可欠であること、社会科学的にはフルコスト原理(経済学)、双方両得な解決策(政治学)、未来世代への責任(倫理学)を原則とすることを紹介され、自然資本の劣化や生態フットプリントによる環境評価についてご説明いただきました。授業の後半では、気候変動が、人類の祖先が森から草原に出たり、アフリカを出て拡散するきっかけとなったこと、局地的な気候変動が社会・文化・技術の変容をもたらしたり、大規模な人口移動につながったことを示されました。その中で、豊かで強いものは移動しやすく、貧しく弱いものは移動しにくく気候変動による影響を受けやすいことを説明されました。過去の人口変遷のデータを示したうえで、マルサスの「人口論」での警告の先見性を解説いただき、これまで人口が気候の影響を受けてきたのに加え、現代では人口が気候に影響を与えるようになっていることを示されました。人口転換によって爆発的に増加した地球人口も、増加率は1968年をピークとして低下しており、東アジアおよびヨーロッパの多くの国が既に人口減少に転じています。授業の最後では、日本で実施された様々な少子化対策の効果が現れない状況について、妊孕力の観点からの解説をいただきました。

<まとめ:中崎城太郎>